2020-01-01から1年間の記事一覧

凍える庭

好きな人の姿をじっと見続けてしまうときの気分は、動物を見ているときよりも、雪の降る庭を眺めているときに似ている。私もそれなりにルッキズムに翻弄されて生きてきたから、もういい加減そういった既存の差別意識に取り込まれたくないという気分があるの…

パンを買いに

近所のパン屋さんに行くために早起きをした。毎週月曜日は休日で、よく行っていたパン屋だった。秋になって閉店時間が早まって以来、行けていなかった。早まる前も、行くたびに「もうこれしか残ってないんですけど」と申し訳なさそうにされた。休日は目が覚…

喜んだふり、傷ついたふり

この前お店で、「あんたいくつになったの?」「40です」「まだまだガキね」という会話を聞いた。なんてチャーミングなんだと思った。こう言えばこう返って来るだろう、という想定を覆される会話ができることなんて、人生で数えられるくらいしかない。でも喫…

霧のなか

「このあたりは霧の日の眺めも良さそうですね」なんて話しながらお店の片づけをしていたら、帰る頃には山の稜線をくっきりとした霧が覆っていた。写真が撮りたい、と思う時はいつも車のハンドルを握っている。撮れない。写真を撮るとき、もっとゆっくりとし…

血が足りている・いない

なんとなく血が足りないなと思いながら生活している。物理的にそうというよりは、感覚的に。たとえば自分のSNSを見ていてつまらないなあと思うことが増えた。SNSを見ているのは時間の無駄と言うけれど、SNSを見て時間を無駄にするのが私はわりと好きだし、何…

言わされちゃってる

「カレーを知れば健康も手に入る!!」と、取り寄せた本の帯に大きく書かれている。強気でいいなと思う。宣伝文句ってだいたい、「言わされちゃったね」としらけてしまうのだけど、自分の体調のせいか、書いた人のパワーによるものなのか、なんらかの強い思想…

逆死神

山奥に住んでいるけれど、最近はもう調味料を吸いこんでむせてるだけで家族から悲鳴があがる。東京の街中は今、どんな感じなんだろうか。東京の街中というのはつまり、渋谷駅前スクランブル交差点のことではなくて、中央線沿いのすきな喫茶店とか、通ってい…

焼きそばとプリン

UFOって食べたことないな と思ってスーパーでかごに入れる。亡くなった祖母の得意料理が焼きそばだったので、焼きそばといえば手作り料理だった。だから「焼きそばの湯切りで失敗する」というカップ焼きそばあるある にいつもついていけなかった。のだけど、…

まぶたのうら

3月9日を聴くと中学校の体育館を思い出す。イントロで醸し出される切なさにすこし疲れるくらいには、【3年生を送る会】で何度も歌わされてきた。でも、ラジオでふいに流れるといい歌詞だなぁと思う。過去だからといってやさしいばかりの記憶じゃない。それで…

風邪と正しさから隠れて暮らす

コロナウイルスも流行っているし、今いちばんクリーンで信用できるのはひきこもりの人間なんじゃないかって思う。暇な夜。雨が雪になったり雪が雨になったりする、冬と春の境目の、山の奥深くにいる。明日は雪が降るから、車に乗っちゃいけないと言われた。…

味がする

スパイスカレーの教室に行った。マスタードシード、クローブ、シナモン、フェンネル。いろんなスパイスの入った料理を食べていると、風味の情報が多すぎて頭がぐちゃぐちゃになって口の中も温まって、そのままの勢いで健康的になれそうな気になる。飲食がも…

あたたかい暗がり

べつに働くのはぜんぜん好きじゃないけど、ゴミみたいな粉雪と、冬の日のつめたい空気を頬に受けながら猫背で歩く朝のことは悪くないなと思った。予定がないと午前中に起きて外になんか出ないし。朝の山、きれい。仕事に向かう道の落ち着いた、つまらない頭…

感謝なんかしない

家族が帰ってきた声がして、聴いていた音楽を消す。カネコアヤノの『燦々』ってアルバムの曲を流しながら、タマネギを炒めていた。バイトが終わって、(というかフェードアウトして)頭の中を流れていたうるさい言葉が消えた。嫌いな人に会わないと何も考え…

バラエティ

昨年の秋頃に大学の先輩からもらった青い刺繍の靴下、うっかりたくさん履いてしまって、すこしくたびれてきた。うっかり と書いたのには訳があって、綺麗な靴下だからすぐ履きつぶさないように大事に履こうと思っていたのだ。でも私は服でもなんでも青色が好…