霧のなか

「このあたりは霧の日の眺めも良さそうですね」なんて話しながらお店の片づけをしていたら、帰る頃には山の稜線をくっきりとした霧が覆っていた。写真が撮りたい、と思う時はいつも車のハンドルを握っている。撮れない。写真を撮るとき、もっとゆっくりとした目を持ちたいと思う。もっと、ズームしたりリサイズしたりしながら、よく眺めないと、自分がいるところが清潔なのか不潔なのかもよくわからない。実際、このところの私は、私のことをあまりわかっていないのだ。霧の夜の運転はひさしぶりだったから、おそるおそる進みながら家に向かった。

 

ここしばらく、何も考えられなかった。とにかく、仕事の知識のインプット、作業の最適化、体力の回復にすべてがもってかれていた。何を書いても時代の言葉にされてしまう昨今だけど、ただただいっぱいいっぱいになっている自分のことを、ちっぽけな自分の、疲労や不満を覚えておいたほうがいいような気がする。なぜなら自分の命というのは、そもそも些細なものだと思うから。