味がする

スパイスカレーの教室に行った。マスタードシードクローブ、シナモン、フェンネル。いろんなスパイスの入った料理を食べていると、風味の情報が多すぎて頭がぐちゃぐちゃになって口の中も温まって、そのままの勢いで健康的になれそうな気になる。飲食がもたらす効能のほとんどは思いこみの恩恵だろうから、温かいとか辛いとか、手近な刺激を拾いあげて、食べ終わったら体の熱さのことを「おいしい」と言い表したい。

カレー教室、きっと同じ年頃の人はいないだろうし、ほんとうに勉強のために行くぞと気を引き締めて行ったのだけど、なんだか好きな空間だった。今までさまざまな場所で、自己紹介を促す質問に正直に「春からカレー屋さんの手伝いをします」と答えても、だいたい「ハア」みたいな反応だったのが、自己紹介した途端に「行きます」「店名は?」「住所は」ってほんとうに来てくれる人の興味の持ち方をしてくれて、嬉しかった。それが単にカレーというか、おいしいものへの興味であるだろうことが、余計に私を嬉しくさせた。嘘を言う必要のない空気をできるだけつくりたいと思っているけど、これが他者が支配している仕事の場 とかだったりすると、難しい。へらへら笑って、いつの間にか言わせたり言わされたりする。そういうときの言葉は味がしない。投げつけられる言葉がいずれにせよ痛みを伴うものであったとしても、せめて思ってもないことは口にしないでほしい。生活を賭けてやっていることに興味をもたれたい。ささやかで、とても贅沢な望み。