ケーキの切れはし

パン屋さんでシュトレンを買った。初めて。シュトレンというのはクリスマスを祝う食べ物のひとつで、日持ちするフルーツケーキのことらしい。ケーキといっても、見た目はかなりパンである。洋酒やドライフルーツをふんだんに使っていて、ワンホールケーキくらいの値段がする。準備にもかなり手間がかかり、味を落ち着かせるのにひと月ほど時間をかけるらしい。カレー屋の店主のSさんが一切れくれて、食べてみたのが美味しくて、忘れられなくて買いに来てしまった。そう伝えたら、パン屋の奥さんは「シュトレンおいしいよね。でもうちのシュトレンが特別においしいと思う!」とニコニコしていて可愛かった。じゃあいい買い物をしました、と伝えると旦那さんが帰ってきて、蜜柑あげるよと言って手のひらにひとつ載せてくれた。うれしいけど何で?と思った。それを見て奥さんが慌てて、じゃあこれもあげるから待っててと言って奥に引っ込んでいく。何かと思ったらクリスマスケーキのスポンジの切れ端をビニール袋に入れて渡してくれた。パンの耳とかは聞いたことあるけど、とすこしびっくりして、でも嬉しくてお礼を言って受け取った。いつ行っても親戚の子どもみたいに優しくしてくれる不思議なパン屋さん。あるいはお腹空いてそうな顔してるのかもしれない。私が...

寒くて忙しくて気が滅入るけど、家の中にいて凍えるよりも外に出て震えながら歩いてみた方が、いいことがあるなと思い直した日のこと。スポンジケーキのはしっこ、砂糖がしゃりしゃりして美味しかった。