風にアルコール

誰も隣りに立っていなくてきもちいい。

駅前。厚着した人間達の背中。たこ焼きを買うために並ぶ家族。花屋の店先が、いつの間にか和風になっていて、年末だなと思う。立ち止まって、何か買うか迷う。買わない。昨日のお酒がたぶん身体のどこかに残っていて、私の頭はぼんやりしている。寝すぎたせいもあるだろう。

大きな飲み会のあとは、きまって寝こんでしまう。あまり喋っていなかったからか、気だるさだけを引きずる形に落ちついたが、もし喋っていたら、眠りにつくのも遅かったかもしれない。滅多に飲めなさそうなお高い日本酒があり、会はやけに盛りあがった。すっかりくたびれていた私は、二次会の予定を立てる社の人をさしおいて、同僚と帰った。タクシー代を出すからいっしょにタクシーで帰ろうと何度か誘ってもらい、同乗して帰ったのだった。言葉少なな帰り道に、なんとなく「これは優しさだな」と感じた。ひとりで歩いて帰るつもりだったのを見透かされているような気がした。あとはすこし、守られているような感じもした。

守られるだなんて、今更だ。これはその人に対してではなく、この世界への感想だ。戦いすぎて、優しい人がいるということをたまに忘れたくなる。優しくされると、ひどいことをされたということに気づかされるから。残酷な人にも優しくしたいと思って、なんとか生きて来たのだ。そういう自分なら好きになれそうだと思うから。優しさを、美しさとして信仰している。私にはそういう類いの弱さがある。

ほんとうは、みんなそこまでわるい人じゃないのかもしれない。それでも、私を好きだと言ってくれる人が、私だけを好きになってくれるわけでもないから、物足りなくて好きになれない。女の子だからがんばらなくていい、適当でいいと言われほんとうにがんばらずに適当に、ゆるゆると生きて、愛されても、なんとなくつらくなって、慰め合って、そんな人生はしょうもないね。守られるな。戦えよ。

寒い季節だ。これ以上ぼんやりと過ごしてしまうのはきっと苦しいから、今はつめたいものだけに抱きしめられていたい。