あたたかい果物

自分が気に入って買ったものがほとんどない部屋で寝たり起きたりしているの、なんだか無防備すぎてメチャクチャになりそう。メチャクチャになりそうなのは決まって気分が落ち込んでいるときで、調子がいいときはそんなこと思わないのだから、調子がよくないのだろう。半年くらい客間で過ごさせてもらっていたのだけど、いいかげん部屋をつくろうという向きになって、亡くなった祖父母の部屋を整理している。そもそも一時的に泊まるだけのようなつもりで実家に引越してきたのだから、誰のせいでもない。

もう祖父も祖母も亡くなって数年以上経つのに、まだ生きているかのように話してしまうことがある。部屋のせいかもしれない。祖父が元気なころ、趣味で桃やプルーンを育てていた。よく晴れた日に、高い所にいる祖父から桃を受けとって、「そっといれろな」と言われ、そっとカゴに投げ入れたことを今でもたまに思い出す。祖母に笑われながら「そういうことじゃない」と言われた。覚えている。

ずっと家にいるとなんだかいろんなことにナイーブになってしまうから、そしてそれが気分のせいなのか部屋のせいなのか人生のせいなのかよくわからなくなるから、思いつきで、林檎のジャムをつくることにした。赤い球体を回転させながら包丁で皮を向いていると、「お見舞いみたいだ」と思う。ベッドの横で誰かのために果物を切る。そんなこと、した覚えがないから、きっとアニメで見た記憶だろう。包丁をつかったり、水気がなくなるまで煮込んだり、時折へらで掻き回したりしていると、頭のなかから言葉がなくなって心地いい。煮込んだばかりのジャムを味見すると、前につくったときよりも甘さが足りない。でも冷えたら近づくかもしれない。わからない。いろんなことはいつも、私が思うより苦かったり甘かったりする。