世界

「さみしいから誰かと暮らしたい」という感情が、もうずっとわからない。ミュージシャンに唄われている愛ということばも、あまりわたしに馴染まない。わたしが愛というものを考えるとき、過去の恋人たちは一切の影をひそめてしまう。顔も体温もことばも、湿った白い風景のなかに消えていく。愛と誰かの名前の結びつきがほどけ、わからなくなる。そのときわたしに残る愛というのは、たとえば真夜中のスープの湯気、古びた本、水色の朝に、白けた月を見あげることだ。その真空のような時間を恋が超えることを、わたしは取りたてて望んでいない。愛。それにはいつも温度がなくて、離れているときにしか見えない。

出逢ってすらいない誰かのことより、世界のことを見つけてみたい。恋人なんていらないと言えば誰かを傷つける。だから言わずに、ただ思っているけれど。テレビを消さずにいられない、自分の弱さを知っている。人の目がうるさい。人の声が痛い。それでも、孤独なときにだけ星や土がそばにきてくれる。そのことにわたしは隙間なく愛される。それをあなたに、あなただけに教えたい。世界というものがもしもどこかにあるとしたら、それは人間ではなくて、星や土のようなものだと思う。生まれてからずっと、そばにいてくれる、彼らのことがわからなくてかなしい。この感情にさみしさという名前がつくなら、わたしはこれだけ世界と一緒にいて、世界のものにすらなりきれずにいるということかもしれない。ここはいつもしずかだから、わたしは何もわからない。

さみしいよ、別たれてしまうなんて。それでもわたし達は、これ以上、誰のものにもなってはいけない。あなたがどうしたいかはわからない。ただここは、土と星にとても近い。わたしは世界を理解することを望んでいる。