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あっけないままさようなら

喫茶店のバイトで早速飲み物を零してしまってへこんでいたのである。そうしたら違うお客さんが励ますように別のことでお礼を言ってくれたり、冗談を言って笑わせてくれたりして、元気がでて、それから申し訳なくなった。いいひとたちだと思う。なにかお返しがしたいのに、もう二度と会わないかもしれない。そう思うと溜め息がでる。人のくれるもののなかで感情だけが大事で、それ以外のことはほとんど覚えていない。そんなのもらったところで見えないから、わたしが勝手に信じているだけなんだけどさ。
ありがとね。さよなら。

高校のころ、学校の放送室を貸し切って映像作品をつくっていた。放課後はもちろん、朝部活と土曜部活のあるへんな美術部に所属していて、わたしは毎日それに出ていた。すごく先生や先輩に買われていて、高校生活はそれだけが支えのようなところがあったのだけど、映像をつくっていたときは、行ってもなにもできなくて、一度部室に顔を出したあとは、放送室でずっと泣いていた。バカだったな。誰かにすがりつけばそこから出してもらえたのかもしれないけど、なぜかできなかった。「できない」と言ったあと、がっかりされるのが怖かった。部屋で膝をかかえて泣いていると、あのときのオレンジ色の放送室につつまれているきもちになって、わたしのまわりに、ゼリーのような四角い輪郭ができる。いくつかの書類と、大げさな機器、あとつかっていないレコードプレーヤーがあったっけ。はじめてつくった映像は、思わせぶりなだけで、中身がなくて、ほんとうにつまらなかった。

いろんなひとが優しくしてくれたし、傷つけられもした。今だってそれは変わらない。どうしようもないことで涙があふれる。それは苦しい。でもすっきりする。べつに、これでいいのだと思う。涙の感触をこれから何度も確かめる。ひとりで確かめる。優しくされても、傷つけられても、ひとに優しくする。そういう自分をめざすことでしか、自分を受け入れられないからだ。なんにもいらない。期待される重みを知っていた。あんなものを、どうして人に背負わせられるだろう。なにもくれなくていい。

なんて、そこまで言ったら嘘なんだけど。