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草原にいる優しい人

あなたは知らないだろうけど、世界の真ん中は山でも海でもなくって草原なんだ。そこにはいつもそよ風が吹いていて、太陽がまぶしくも暗くもないまま照っている。永遠の午後だ。そこに待たせている人がいる。

あの後ろ姿を振り向かせたい。ただ声を出すことができなくて、昼の光に立ちつくす。腕にはめていない時計の秒針が動いていて、音が響いている。おそらく、この夢にはタイムリミットがある。

たったひとりの人を振り向かせるために、九十九人から嫌われる必要があったとして、それに耐えられるだろうか。耐えられるかもしれない。わたしはそう思って駆け出す。草が絡んで転びそうなのに。

あの優しい人に会いに行こう。その目に映ろう。それがどんなにかちっぽけな夢でも、ここにはそれくらいしか大切なことがない。