こんな家、燃やして

色なのか輪郭なのか動きなのか、もう何がなんだかわからなくなるくらいまぶしいものが見たい。けどそれがなんなのかわからなくって、説明がつかない。風がふかない。だから体が動かない。なんだろうのどの奥が、重くて速くてとても熱い。頭が秋に追いつけなくて、わたしの耳は蝉の鳴き声を思い出している。未来がつかまらなくて、わたしのたましいが長く長く伸びていってしまう。誰か、神さま。このつむじを踏んづけて、大気圏内にとどめておいてください。苛立ちをおぼえる。愛想笑いをやめて、言いたいことを好きなだけ言えるならなんでもよかった。メガホンもペンも同じこと。ちがうと言う、きみは教養を知りすぎただけさ。わたしはかなしくて、準備運動のように両手の指を折り畳む。

ためいき。吐いた息、そのかぎりないつめたさが、金木犀にすこし似合う。かつて寄りかかったつめたい壁の感触を、わたしはうなじに思い出す。侮られるくらいなら賢そうにしていたほうがいいのかもしれない。バカなことを言えばバカだと呼ばれて、インテリぶればインテリだって思ってもらえる、物差しのない世界のことを、みんないわゆる社会と呼ぶのかもしれないから。

あ、光ってる。感情が今、よくわからないけど光ってる。なんだか夜の真ん中で、寝つけないからうまく言える。心はいつもカミナリのようだ。わたしもう全部を忘れたっていいやって思えるくらい最高の夜があって、どうして破裂しそうにかなしいのか。いつもわからない。わたしだってずっとここに寄りかかっていたいよって叫んで、それも結局しないでいる。大事な感情が通りすぎる。見えなくなってもずっとここにある。バカでも天才でもなんでもいい。この夜を逃げてつかまえたい。