うそみたいな青

つよい風のまま雨がふっていて、休日にしてはめずらしく、冴え冴えと目がさめてしまった朝。ひさしぶりに美術館に行こうと決めた。ここのところ美術館のことが嫌いだった。広すぎる場所にいると、そこに自分がいる意味がよくわからなくなるし、画家が望んだわけでもない、たくさんのグッズや高尚な説明にうんざりさせられるのが嫌だったからだ。いつも思うことなのだけど、死後有名になるつもりのひとは、遺書といっしょに自分の年表を書いておいたほうがいいと思う。わたしだったら、自分の年表を他人に書かれるのなんてごめんだ。

それはともかく、ずっと見に行きたかったマグリットの展示が見れてうれしかった。図録も買った。絵の直線をうつくしいと思ったのははじめてだった。マグリットのあつかう、うそみたいな青は、冷房のきいた暗い照明の部屋で見るのがちょうどいい。図録で見ると、あの清潔な緊張感がほとんどほどけてしまうのがふしぎだ。単に、サイズとインクの限界なのか、それともあの暗がりが綺麗だっただけなのか。あるいは絵の具だけが持っている魔法のようなものなのかもしれない。大学の子に見せてあげたい絵が何枚かあるため、わたしは付箋を用意する。

ついでに、招待券をもらっていたシンプルなかたち展を見に歩く。迷いながら、知らない道を歩くのがたのしくて、自分がとっくの昔に通学路に飽きていたことに気づくのだった。あんまりいい評判を聞いていなかったけど、ストレートに「かたち」だけを見せてくれる、よくまとまった展覧会だった。輪郭、手ざわり、重さ、音、動き、といったさまざまな角度から、美のほんの小さなツノの部分を抽出して見せてくるような集まりだった。わかりやすく純粋で、ある種不気味でもある。わたしは有名な作家を何人もあつめただけの展覧会はよくがっかりするのだけど、今回の展覧会は美の思想が見えておもしろかった。デザインの人は好きなんじゃないだろうか。思考の手ほどきを受けたような一日で、今夜はすこし調子がいい。