洗いたての町

朝は、プールに入りたくない日みたいなにおいがして
夜は、お祭りの終わったあとみたいな光が見えて
もう夏かな?
ちがうか
 
世紀の日本画展っていうのが、いま、やってるんだけど
その招待券をもらったから見に行ったんだ。いいなー、日本画、やりたいなー
やりたいことはいっぱいあるんだけど、詰め込むとないがしろにしてしまうから、慎重に選びたい
ひたむきなひとがすきだから
 
それにしても、捨て身にならないと何も手に入らないな。何もつかむことができない
そもそも、必死でないのに何かをつかめると思っていた事自体がおこがましいけど
でも、わかんないんだよ。空振りしてからじゃないと、手の中に何があったのか
いつもわからない
 
 
春がきて、ちょっと情緒不安定で、気分だけの絶望で「死にたいねー」って言い交わして、
思う存分笑い飛ばす。春なんか嫌いだ。でも、花が咲くと春が好きになってしまう
あんな綺麗なもの、愛さなくってどうしろっていうんだろうね。思わず見とれてしまって、ムカつくな
 
人身事故があっても、そうなんだ、って無表情に言って
でも、明日中央線に飛びこむのはわたしたちかもしれなくって
そんなまぶしいだけの現実を生きていて、スーツ姿の他人の背中がかなしい
あの丸まった黒い背中の、皺ひとつないジャケットの奥に、
くしゃくしゃに疲れたこころがあるような気がして、目を背けてしまう
余計なお世話か
 
桜を見ていると、祝福されているような気分になる
おめでとう、おめでとう、って
手でも叩いて、不躾に、肩を組まれているような…
何がそんなにめでたいのかわからないけど、なんだかそんな気がするよ
濡れたアスファルト一面の祝福
ぎょっとして見ると、いつの間にやら満開の桜
わたしといえば、足下に散り敷かれた花びらに見とれて声も出ない
それにしても、ちょっと生き急ぎすぎなんじゃない?