神様

最近の趣味がさんぽなんだって言ったら笑われた。

ずっと田舎に住んでいた反動だと思う。

町は広いし森も深いけれど、バスが一日に数えるほどしかなくて、

最寄り駅までは車で30分かかって。

自分ひとりで行ける場所なんて限られていたんだ。

だからね。

どこにでも行けるんだと思うとうれしくて、

ついついずっと歩きたくなってしまうんだよ。

どこだっていいから、歩いていたいと思っていた。

住宅街だってうれしい。

夕飯の焼き魚のにおいがこっちまで幸せな気分にしてくれる。

でも、最近はどこにも行かなくてもいいような気がしているから不思議だ。

どこかに行こうと歩き出しても、見事なイチョウの木を見つけては、

それだけで立ち止まって、満足してしまう。

神様みたいだと思った。

どれが、って聞かれてもうまく答えられないけど、

そういう、木とか、土とか、花とか、雲とか、

そんなひとつひとつのちっぽけな現象が、

神様みたいに綺麗だと思った。

そのとき、その瞬間、いつもどこかに行かなくちゃいけないような、

そんな気がしていたくせに、

ほしかったものも、したかったことも何もかも全部消えて、

もうどこにも行かなくてもいいんじゃないかって、思う。

 

それがどうしてか、

自分の幸福の証明のように思えてならない。

それなのになぜか、

胸がつまって苦しい。