Sakuraのこと

会ったことのない人の話ばかりするようになって、しばらく経つ。こういうことは本人ばかりが楽しくて、内輪の外側にいる人に話し回って喜ばれるようなものじゃないなと思う。でも、会ったことのない友人が海の外で今このときも生活していることがなんだか無性にうれしくて、心強いときがあるのだ。

私は一年くらい、暇さえあればオンラインゲームばかりをやっていた。学生時代からの友人の勧めではじめたものなのだけど、ここまでのめりこむとは思わなかった。ゲームそのものはあまり合わない性質(たち)なのか、ゲームボーイアドバンス以降一切やっていなかったのだ。(コロコロカービィが好きだった。)といっても、ゲームそのものというよりは、ゲームを介して知らない国の人と交流することを面白がっているのだけど。

Sakuraは「Hi!」と言って私がゲーム内に出したシーソーに座り、名前を名乗った。それが日本名であることに触れると、日本のアニメが好きだから、日本の言葉をすこしだけ知っていると滑らかな英語で教えてくれた。ローマ字でいくつかの日本語を打ち込んでくれたことがある。いろんなアニメのタイトルを出し合い、ある程度のタイトルがゲーム内NGワードとして引っかかり、打ち込めず、笑った。それがきっかけになったのか、彼女は私がログインする度に私の元に来て、「join me?」と遊びに誘ってくれるようになった。お互いのニックネームと出身国以外、個人的なことは何も聞かなかった。Sakuraはインドネシアに住んでいる子だった。

チャットでは、アニメ以外だと食べ物の話ばかりした。出会って間もない頃、「ランチは何を食べた?」と聞くと「今はラマダーンで断食中だから、今日は何も食べてない」と返されて驚いたことがある。他にも、「これから祈りに行って来るから」と言ってゲームをログアウトすることが数度あり、彼女にとって宗教は生活習慣の一部なんだなあと思った。英語で会話する友人ができたのは初めてのことだったから、彼女の振る舞いが、国の文化に根ざしたものなのか、彼女個人の思想によるものなのか、常に判別がつかなかったけれど、とても優しく、おもしろい人だなと思った。彼女の年齢が自分の年齢の半分ほどであることを知ったのは、毎日遊ぶようになって2ヶ月ほど経ったころだった。私は漠然と、彼女は既に成人していると思っていたので、軽く衝撃を受けた。そういえば、学校では何を専門に勉強しているの?と聞いたら「何を聞かれているのかよくわからない」「私の学校はとても普通なので、そこで特別なことは何も起こらない」というようなことを言われたことがあったな、と思った。

私のやっているゲームは対戦要素がなく、ミニゲームのようなからくりが増えることもあまりないので、一度クリアしてしまうと、そのあとはほとんど同じことの繰り返しになる。だから、もうそのうち、ゲームで会うこともなくなるのだろうなという気がする。それはさみしいことだけど、なんとなく、今の形にこだわらず続いていくものがあるといい。今はまだ思いつかないけど。

 

先日、カルディでインドネシアのインスタントヌードルを買った。インドミーというブランドで、SNSでメッセージを送ると、Sakuraが、ナイス!それは私が特に好きなフレーバーだよ、と言う。よくよく見たら、Soto Ayamというフレーバーのものだと印字してある。食べてみたら、すこし爽やかなチャルメラみたいな味がした。