言わされちゃってる

「カレーを知れば健康も手に入る!!」と、取り寄せた本の帯に大きく書かれている。強気でいいなと思う。宣伝文句ってだいたい、「言わされちゃったね」としらけてしまうのだけど、自分の体調のせいか、書いた人のパワーによるものなのか、なんらかの強い思想を感じるのだ。

リチャード・ブローティガンの『西瓜糖の日々』をはじめて読んでいるのだけど、まだ10数ページなのに、もっときれいな装丁で手元にほしいと考え始めている。おもしろいものを読みたいというきもちと同じくらい、見て触って心地いいものしか手元に置いておきたくないというきもちがある。西瓜糖の日々 は、ずっと一方的にフォローしている人がはじめたお店の由来になった小説ということで、気になってはいたけど読もうとまでは思っていなかった。でもカレー屋でお世話になっているSさんが、以前いっしょに古本屋に立ち寄った際に「西瓜糖の日々という話がおもしろい」とリチャード・ブローティガンの本を指して言っていたのをきっかけに、読んでみたいと思うようになった。そういう縁というか、読むことが偶然になるチャンスを待っていたのかもしれない。おもしろいし、今のタイミングで読んでよかったおもしろさだなと思う。

私は田舎に住んでいる元々インドアな人間なのに、いつもよりこまめにニュースを見たり布製のマスクをしたりするだけで、明るくものを考えたり書いたりすることがどんどん難しくなってきていると感じる。かといって、想像のなかの悪人への過激な叱責や嘆き、想像のなかの善人への架空のいたわりのメッセージを書いても「言わされてんな」と思うようなものになるだろう。いずれにせよ、伝えたいことはなるべく会って感情がうまれたときに直接言いたいものだ。このどっちつかずな気分をくっきりと言葉にしたら、めきめきと悪意に育ちそうで怖い。私がいつも通りにネットで取り寄せた本を読んでいる時間、母親はエアロビを休んで、庭に初夏の花を植えている。