機嫌その値打ち

見返りを期待して人に礼儀を払っているつもりはないのに、聴いている音楽をバカにされると傷つく。中途半端に紅葉した山を写真に撮らない。あなたと会ったり話したりすることを、単なる趣味にするつもりはない。それを道徳と呼ぶのもいいかもしれない。だとしても、嫌いなものを好きと言わないことくらいでしか、私のことを私のままにしておく方法がない。だからこそ確信をもって、選ぶ言葉をまちがえたい。

すごく嫌な気分になったときに、すごく嫌な気分になりましたと伝えて機嫌がよくなったことはない。がっかりしたくないから、迂闊にほんとうの感情なんか見せたくない。それでも毒を毒のまま人に渡してしまうことは、私やあなたのため、というよりは言葉のためだと思う。わかってもらえないとして、それでもいい。自分と相手を傷つけることで守れるものも、いくらかはあるから。いれたばかりのコーヒーも紅茶も熱すぎて飲めない。火の味がする。