山の履歴

前髪の毛先が睫毛の根元あたりをこするから、また美容院に行かないといけない。自分できれいに整えられたらいいのだけど、切り揃えるのは苦手で、どうもショッキングな仕上がりになってしまう。ものづくりの学校を出ているのに手先が器用でないなんて、つまらない人間だなと思う。絵もうまくない。

新しいバイト先で、昨日それぞれ自己紹介をしあったのだけど、自分の人生の辻褄のあってなさに、(あ〜あ)となった。あわせようとすればあわせられるのかもしれないけど、そういう恣意的な生活は、それはそれでおもしろくないということを、もう知っている。

インドから帰国してきたばかり という非常に気になる人がいて、旦那さんと一緒にお店を開くために長野に戻って来たと言うので、どんなことをするのか話を聞いたら、私が‘‘里’’と呼んでバカにしている地元の町に、カレーと珈琲のお店をつくってくれるらしい。しかも出身の大学が同じだった。一瞬で心を開いてしまった。こんな山奥で、ルーツの重なる人に出会えると不思議なもので、わかりやすい履歴書にならない暮らしをしていても、何かが自分の中にしずかに積もっているような気がしてしまう。うれしかった。冗談で、「繁盛したら手伝いにきてよ」と言ってくれた。繁盛させなくてはならない。