海のむこう

夜中にエッフェル塔の写真が届く。指先でズームする。フランスにいる先輩と、交換日記のように時差のあるLINEのやりとりを続けているんだけど、これがなんだかとても楽しい。なぜフランス人はフランスパンを剥き出しで持ち歩くのか、という考察が名文なので、みんなにも読んでほしいくらいだ。

ここ数日、杉崎恒夫さんの「パン屋のパンセ」を読みこんでいる。私は一度読んだ本を読み返すってことを滅多にしないから、これはかなり好きってことだ。たった一行の透明な世界。肺炎で亡くなられたからだろうか。文字にふくまれている酸素が多い気がする。ぜん息気味のときに読むと心地いい。もっと書きたいことがあったような気がしたけど、もう亡くなってしまった人の本を買っても、もう読んでもらえない感想を書いても、なんだかしょうがない気がする。間に合わなかった感想を書いている。

不可思議/wonder boyも笹井宏之さんも26歳で亡くなった、ということを8月の誕生日以来、やけに思い出している。よくない傾向だ。死ぬことにも生きることにも、意味なんてない。作者の死によって作品が完成するとほんとうに思っているのであれば、かんぺきな一編の詩を書きあげた、あのはじめての朝に死んでいればよかったのだ。