ボールは回ってきている

夕方、公園の近くを歩いていたときのことだ。バスケットボールが落ちていた。ふと左上を見上げると、目より高い位置に、水色のスニーカーが見える。生け垣の向こうの柵を、小学生らしき少年がよじ登ろうとしているところだった。反射的にボールをもつと、こちらに気づいたのだろう、笑顔で「すみません!」と言われる。投げろってことだ。投げるポーズをとる。でも、彼は動かない。大丈夫かな? はい、と声をかけて、ポーンと投げたら、サッと動いて、すかさずキャッチされる。驚いた。「あぶねー」そばにいた友達っぽい子がうそぶいているが、我々は、目だけで「やるじゃん」という顔をして、その場を離れた。綺麗な目、しやがって。

こんなことばっかりだな。言葉なんかさして交わしてないのに、ふとした瞬間、「わかって」しまう。気づくと私の番が回ってきている。回ってきたら私は、あなたが受けとる受けとらないに関わらず、手の中にあるボールを、ポーンと投げたくなってしまうのだ。