その気になったかい

私のことを好きだと言ってくれる人々にその理由を聞いて回り、ひとしきり否定したい。そんな帰り道がたまにあり、今夜がたまたまそれである。せめてヒステリーくらいヒステリックに起こしたいものだが、結局しないので、0時を以てヒステリー未遂となる。

夜道、紫陽花、ぬるい空気。ラとファの音で適当な歌をつくって帰る。どんなに条件のいい求人情報を見ても気が乗らない。ほんとうは、文学以外にやりたいことなんてない。でもお好み焼きの前で、その情熱がどれくらい情熱なのかを語れと言われても、もう語れないだろう。こんな気持ちを、いったいどんな言葉で、どんな声で言えばいいのか、わからないのだ。生きていることへの焦りに焼かれていない人に会っても、何を喋ればいいのかわからない。こんなに優しくしてくれるのに、言いたいことが見つからない。薄情な話だ。きっとこうやって人を失うんだろう。こわいな。

私は「それっぽく」話すのが得意なので、ちゃんと頭をつかって話せば、結構な確立で人を「その気に」させることができる。ただ問題は、私は筋道を立てて話すのが得意なだけで、筋道を立てて生きられるわけではないということじゃないだろうか。いくら正しいことが頭でわかっていても、正しさのためだけには生きられない。これはでこぼこの海の上を、葉っぱのボートで行く道だから。

思うのだけど、演出が上手くなればなるほど、本質的な意味での信頼を欠くんじゃないか。想定していたよりもずっと、事態が自分の思い通りになってしまって恐い。私は畏怖されたいのではなく、あなたに信頼されたかったのだが、それもまた、今月を以て未遂となる。