まだ広い部屋

 パソコンを開いたら、下の方に一行だけテキストエディットが展開していて、8888888…と羅列した文字があった。拍手だ。

 今、新居にひとりで座っていて、うれしくて、すこしさみしい。やりたい仕事が見つかったはいいものの、物件の契約がなかなか進まなくて、今日まで友人の家を間借りしたり、長野から東京まで新幹線で通ったりしていた。いつになったら暮らしを始められるのか。そういった焦燥感は解消されたが、ほぼ身一つで上京したのでふとんもなければカーテンもない。とても狭い部屋なのに、モノがないせいでやけに広く感じる。足が短いな。モノがないことでみじめに感じるかと思いきや、降って湧いたサバイバルに燃えているところがあって、つくづく慎みが足りないと思う。しかし、ふとんはほしいな。明日からまた仕事だ...。
 
 近所におおきな公園があるから、朝の散歩がたのしみだ。無頓着だった学生時代の引っ越しに比べると、資金は当時より少ないのに幸せな引っ越しをしたんじゃないかと思える。もうすこしがんばれば、もっと機嫌のいい人になれるかもしれないという予感もある。
 わたしはてっきり、「がんばる」って言葉は生活の外にあるんだと思っていた。これはわたしの肌の裏側に刺繍されている宗教みたいなもので、ずっと消えないのだろうけれど、時には指輪のように外すこともできるようだ。がんばる。生活に手を入れる。