休み時間

 目の前に運ばれてきたアイスコーヒーを見て思い出した。今日は何曜日だったっけ? 土曜日だ。ということは、今日はバイトがない。せっかく、ここまできたのに。急に思い立って、本のたくさん入った紙袋を持って、古本屋へ立ち寄って、売っぱらって買って、することもないから喫茶店の席について、本を開こうとしたときだった。なんてことだ。目の前には、バイト前のささやかな贅沢。であるはずだったもの。ただの美しい休日になってしまった。コーヒーの混ざった、でっかい氷がきらきらしている。

 なんっていうか、五月の真っ昼間なんかに外に出ると、もう、イエローグリーンの若葉とか、これでもかってくらい咲き乱れてるモッコウバラとか、Tシャツで歩く人々の肩のラインとか、とかから、伝わってくる、初夏の気配にクラクラとする。加えて、買ったばかりの歌集がとてつもなく、よくて。文字のひとつひとつが、わたしの魂についた窓を開けはなってゆくせいで、この体のぜんぶが風の通り道になってしまう。そんな、むずむずとしたキラキラがつまさきから、ぐーっとよじのぼって、頭から飛び立っていくのだ。はあ。なんたる自由。結論。わたしを幸せにするのはわたし。