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行方不明

昨夜はひどいどしゃ降りだった。バイト帰り、いつも通り満員電車に乗っていたら、足下に傘が落ちてきた。どうも左前で立ったまま寝ているおじさんのもののようだ。みんな気づいているけど知らんぷりしている。いたたまれず、わたしは「落とされましたよ」と、寝ているおじさんに声をかける。うとうとした目がわたしに気づき、「あ〜どうもどうも!」と傘を受けとる。が、数秒でまた寝てしまう。そして当然のようにまた、傘が足下に落ちる。どうするべきか迷い、ぼうっとそれをながめていた。拾おうか。このまま床に横たえておこうか。そうこうしているうちに、ふいに横から30代前半くらいの男の人が現れ、それを拾った。なんだ、同じことを考えている人が車内にもいたのか。ほっとしてそのひとを見上げると、なんだか顔つきがおかしい。どうするのか気になって様子を見ていたら、次の駅で足早に降りて行ってしまった。傘をもったまま。わたしは呆然として、雨粒が激しく流れる車窓をながめた。

らしょうもん。

とある文学作品のタイトルが、ふいに、頭のなかを走って行った。