スコール

「雨あがりの夜の涼しさは
世界の窓という窓をひらく」—岩田宏

 


泣いてる暇があったら詩集でも読んだほうがいい。本を読むのは武器を研ぐことと同じで、たのしくはないけど必ず私を助けてくれる。おおきな感情の波にさらわれたときに、家族にも電柱にもすがらない。この足の重みが信じられればいい。まだ、ここにいるから。雨でも雷でも、降ってくればいいじゃないか。

そう言い聞かせる。凶暴な気分に火傷しそうになるけど、こんな私を、きみは信じてくれるだろう。ありがとう。あのころ、私のこと「綺麗」でも「可愛い」でもなく「かっこいい」と言ってくれた人がいたことを、たぶん一生覚えてる。私、さいきん「綺麗」とか「可愛い」とか、言ってもらうよ。きみには信じられないだろうけど、なんか、おかげで楽しくやってる。でもきみがいなくっちゃ、この道、歩きつづけたりしなかったなあ。ここはなんて明るいんだろう。いい感じだよ。たまに、ブレーカーが落ちるみたいに、この部屋が暗くなる日のこと、考える。被害妄想だよ。わかってる。わからなくなったら思い出す。そうやってなんとか日々は続いていく。だからきみも早く、不幸な自分に酔うのはやめるんだ。

廊下から黒い空にむかって手をのばしても、降っている雨が手に当たることはなかった。それと同じように、外を歩き出さないと気づけない重みはたしかにあり、大人はそれを現実と呼んでいるのだった。「知ったことじゃない!」そう言ってくれないか。

だって退屈なんだ。七夕飾りはつくったかい? 世界平和なんて、夢がでかすぎて、よくわかんないよ。すきな人とハイタッチできるような瞬間が、ひとつでも多くうみだせればそれでいいよ。しょうもないシャレに、誰かの目が輝いているのを、これからも何百回だって見たい。