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ホワイトハウス

もう全然、喫茶の仕事に行きたくなかった。前回、誤解があって手ひどく怒られ嫌われた先輩のことを思い出して。謝ってもらったはいいけれど、まだ仕事は完璧にできないだろうし、また機嫌をそこねてしまったらと思うと怖かった。何より気まずかった。「やらなくてはいけない」ことなんてこの世には何ひとつないので、「行かない」という選択肢もあるにはあった。でもそれではだめなのだった。まだ、自分にできることをすべてやりきったわけではなかったからだ。だから、「売られた喧嘩はすべて買う」「借りは返さなくてはいけない」って完全にやくざの理屈で自分を奮い立たせてバイト先にむかったけど、いざお店に到着したら、足りない気がした。こちらを振り向かない後ろ姿は、怒っているというよりは、すこし。それまで存在しない選択肢が突然目の前にあらわれた。のぞきこんで、ちいさな声で「おはようございます」と声をかけたのだ。力なく、けれどしっかりと微笑んでくれた。「間に合った」と思った。何にだろうか、わからないけど、わたしはそのとき、間に合ったのだ。

仕事は、この前よりはマシにできた。でも、まだお酒の名前がわからなくて、ホワイトホースをホワイトハウスって言っちゃった。恥ずかしいと思うべきなんだろうな。でも歯が痛くてつらそうだったママさんと先輩が笑ってくれたので、ゆっくりでいいかと思った。帰りは終電で、これ以上ないってくらいすし詰めにされたけど、降りたらやっぱり気分がよかった。オレンジジュースを買って飲みながら帰った。