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さち

家の裏山にはえていた、たらの芽のことを考えている。今頃すくすくと育って、収穫するのにちょうどいい大きさなのではないか。たらの芽、食べるのは嫌いだけど、あれを指先でコロンともぎとるときの感触がすきだった。はやくしないと、鹿がたべちゃうよ。お父さん。

貸してもらったインド映画を見ていたら、父に殴られたときのことを思い出した。まあ、そのあと殴り返すんだけど。中学生のころだ。あのころ、よく父といさかいになった。私は父のことを、心の半分では尊敬していたのだけれど、そのころは、人に支配されることを毛嫌いしていたので、結果的に自分に命令する人間を全員憎んでいた。頭ごなしに「年上だから言うことを聞け」と言われることに、反発せずにいられなかった。言葉尻に敏感に反応し、不愉快なことには片っ端から噛みついていた。思えば、私がはじめて逆らった年上の人というのは、父だったのではないか。あのとき、なにが原因だったのだっけ。たしか進路のことで認めてもらえず、「それなら死ぬ」と口走ったのだ。父が私を殴ったのは、あとにも先にも、あのときの一度きりだ。

私達は一度にたくさんのことを信じられない。あるいは、私が、だろうか。私は私が感じたことしか信じていないし、尊敬する人は、社会になど選ばせない。私が選ぶと決めている。私が私を生きることに、嘘など必要ないからだ。