てのひらに風をあてて歩く

寒いけど、髪はひとつに結んでいたい。赤いマフラーを巻いて出かけることにした。一昨年に母が送ってくれたきり、一度もつかったことのない、ユニクロのマフラー。赤なんて、制服のスカーフ以外に身につけたこともない色だった。そもそも、マフラーを巻いたことも、人生で数えるくらいしかない。母は容赦なく、こういうことをする。前も、突然、派手な色のラメラメのセーターを送ってきたことがあったっけ。それは、結局一度も袖を通さないまま。このマフラーも、絶対に似合わないだろう、と思いつつ、鏡の前で装着してみたら、なんだ、べつになんてことない。大丈夫だ、と思って出かけた。なんだ、あったかい。拒んでいたのは、わたしだけだったようだ。なんだかこのごろ、そんなことばかりだ。

今なら、いろんなことを怖れずにいられる。たぶん冬のおかげで。冬の光はまっしろで、まぶしすぎて、いろんなものが飛んじゃって、やさしい。世界を、小さいままで生きていくには、情報量が多すぎるから、すこし見えにくいくらいがちょうどいいんだ。

 

手袋をはずした、片手がすがすがしい。