望まれたからさ

きのう、大学構内を友人とふらついた。芸祭だった。わたしはまだスタッフとして大学にいるけど、自分が出展していない、学生として在籍していない芸祭は、ひさしぶりに会う親戚のようで、すこしよそよそしかった。昨年までは、上手な展示や洒落たフリーマーケットに対するかすかな嫉妬がたしかにあったのだけど、それもなくてふしぎだった。素直にたのしく見れたよね。自分が決してやることのないダンスとか、珈琲の屋台がまぶしく思えたよ。なんでだろうね。

学生ができあがった詩を読ませてくれ、すこしうらやましく思った。ぼんやりと、何か技巧に関する意見のようなものを求められているのかもしれないと思ったけれど、素直に好きな詩だなと思ったからやめた。いい詩だよ。

違う学生たちと、卒業制作でつくった本を売るって約束を、しているんだけど。いいかげん果たそうと思ってこのごろ夜な夜な本をつくっている。まあ、一年前の約束なんだけど。なんだか踏み出せなくて、もう忘れただろう、あの子達、って思ってたら、「覚えてますよ」って、言われちゃって。せかされて、うれしかったな。切りそろえた紙のひと束をトントンとならす。製本用ボンドを混ぜる筆の感触。表紙をパタンと閉じて、ゆっくりとおもしを載せるとき、学生でもない、正社員でもない、わたしはわたしを特定できる。