眇めても見えない

「富士山、見える?」と道中、車内で聞かれ、「霧がかかっているからね、てっぺんひとつ見えないよ」と答えたら、「ふーっと吹いて」と言われた。わたしが神さまだったらねえ、としょうがなく笑った。わたしは母のこういうところが好きだ。

なんでそんな話になったのか、忘れたけれど、母が昔、ふるい図書館で親を待っていたことがあるのだと言い出した。そこには、オズの魔法使いとか、赤いろうそく、といった、有名な童話がたくさんあった。でも、どれも古くて、本が壊れているせいで、途中までしかページがなかったり、順番がおかしかったりしたのだそうだ。だから、話がわかっても、結末を知らないんだと言われた。家について、新品の、オズの魔法使いの文庫本をひらいて、母に見せた。でも、「老眼だから、よく見えないや」と言って、すぐに眠ってしまった。