七月の魔

また喫茶店のおじさんにケーキをご馳走になってしまった。
撮影に使ったから、と言ってカウンターの下からモンブランを出してくれた。(なんの撮影なんだろう)喫茶店の人というのは何故こういうことをしてくれるのだろう。やめてほしい、泣いてしまいそうになる。

今日は暑くて、とても暑くて、行こうとしたお店が3つともお休みでひどくがっかりしていた。そういうすこしのがっかりが、この頃、やけにわたしを疲れさせてしまうようだった。自分を慰めるものが必要だったのだ。最初から入るつもりではなかった。その一個前に入ったご飯屋さんがあまりにも賑やかで、余計に背中をあぶられたような気になって、逃げるように会計をした。幸せになるための食事でそんなになってしまったから、バスを待つほんの数分が耐えられなかった。そうして入った喫茶店だった。

大学に行ってるんだっけ。あ、はい。夏休みは長野に帰っちゃうの? 帰りたくないんです。 ははなんで。 就職しろって言われるから…。 就職してるじゃん! ですよねー! ははは。あはははは。

どうでもいいことしか話さなかったけど、よかったんだろうか。やさしくしてもらっただけで、いいんだろうか。せめて、できるだけ丁寧にお礼を言って帰ろうとしたら、先にありがとうございましたー!と言われた。うなずくと、もう一度言われた。笑ってしまった。