即興音楽

中学生のクリスマスにもらったラジカセを、今でもつかっている。たまに音楽を聴くのだけど、その灰色の機械は、早送りができない。ひとつ、ふたつくらいなら曲を飛ばせるけれど、むっつめくらいになると勝手に曲をリミックスして流してくる。戯れに、あちこちのボタンをぽちぽちと押してみるのだけど、言うことを聞かない。次第に、それもそうですよね、という気になる。大学の友達がたくさんCDを貸してくれたことがあったのだけど、あるアルバムをラジカセにかけると曲数が1なのに、そのくせその曲が70分36秒もあって、思わず笑ってしまったことがある。貸してくれたものの中でいちばん好きだった。

3年前に買ったiPodは指先でスイスイ早送りができるので、わたしは音楽を好きなところから流してしまうこともあるのだけれど、はじめて聴くCDは、なんだかそのラジカセを通したくなる。音楽というのは本来、目の前で人間が息継ぎしながら起こしているものだった、望まずとも最初から終りまで耳に入ってきてしまうものだったと思うのに、機械はいくらでも早送りを許してくれるので、わたし達はいつも聞きたい曲ばかり聞いているね。