平和と暴力

1階から4階までをぶちぬく長いエスカレーターに乗っていたら、急に田舎のイオンモールで、何がほしいのかわからくなって立ちすくんでいた、十年前の自分がよみがえった。田舎のイオンモール。とりあえず広くて、ショップスタッフの不自然にやさしい声がずっと「タイムセールです」とくり返していて、人はそんなにいなくて、とりあえずそこに行けば欲しいものは大抵なんでもあるはずなのに、わたしに何も買いたくなくさせる。そんなところ。田舎のイオンモール。風のない店。

早く帰りたい。
家には帰りたくない。
どこかに行きたい。
それがどこなのかわからない。

何も買いたくなかったから、買いたいものがほしかった。休日になってまで知り合いに会うのは嫌で、でも知り合いのいなさそうなところで、時間をつぶすという発想もなくて、結局誰かに目撃されてしまう。目撃。向こうはわたしに気づくのに、わたしは向こうに気づかない。そんなことが何度もあった。声でもかけてくれればいいのに。無理か。あのころわたしは自分が嫌いだった。