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目眩

月が綺麗で立ち止まってしまいそうになる。ぼんやり煙った輪郭と、その周りに霞んだ宇宙の、境目を見つめてしまう。見張っている。そこから何か、世界の秘密のようなものが、ここまで降りてくるんじゃないかと。目の奥が熱い。もしかしたら哀しいのかもしれない。もしくは、苛立っているのかもしれない。

 

この前、水道橋で友人とお酒を飲んで、帰り道に吐いた。きもちよく酔って、きもちよく別れて、中央線に乗って、気づいたら視界の端が黒ずんでいた。両目のフレームの端から蝕むように明度が落ちて、視界が狭まって、体温が体の中心からぐんぐん遠ざかっていって、指先の感覚が消えるころ、気づいたら吐いていた。通りすがりの親切な人に支えられて、なんとか姿勢を保てるようになった時に、もやのかかった頭で、あー、そういえば、吐くってこんな感じだったなぁと思った。怒りを感じる瞬間は、どこか吐くことに似ている。もよおしてしまったらもう、取り返しがつかない。歯止めがきかない。足がぐらついて、吐き出すまでとても立っていられない。でも、すべて終わったころには何もかも忘れてしまう。助けてくれたひとに、どうもありがとう、なんて笑って。

 

嫌だからやりたくない、という、幼いだけの論理を、いったいいつまで許してもらえるんだろう。あるいはもう、許されてなんかいないのかもしれない。目眩がする。それでも、こんなわたしでも会いたいと言ってくれるひとがいるうちは、しゃんと立っているつもりだから、どんなに綺麗でも、月に向かって手を伸ばしたりはしない。