風にめざめる

現実にひきもどされる。電車のドアが開いた瞬間、ふゆのにおいがしたのだ、たしかに。四角いフレームの中にはコンクリートの壁しかない。けれどむこうに「冬」とラベルの貼られた季節がたたずみ、わたしにこれまでの何かを思い出させる。首と手の甲にあたっ…

生きる冬

「アンディモリ」とだけ携帯にメモしてあったので、気になってツタヤで借りた。ミュージシャンの名前だということは覚えていた。でも誰にすすめられてメモをしたのかは忘れてしまった。わたしにアンディモリを教えたのは誰。名乗りでてください。帰りにブー…

傘の不思議

小雨なので傘はささなくていいかと思った。しかし家を出てバス停につくころには本降りになっていた。ぼーっと木の下で待っていたら、見知らぬ婦人が「よければすこしはいってください」と、傘を半分貸してくれた。これで知らない女性に傘をさしてもらうのは…

さらば(そういうことなら)

わたしなりの追悼で書き始めた俳句が、夕方やっとまとまった。きょうは祖母の四十九日だった。偶然きのう知ったのだけど。明日原稿用紙にまとめて封筒に入れよう。すこし楽になった今となっても、人が死ぬということはよくわからない。これについて話そうと…

無口なおまえは、落ち葉を踏みに行けばいい

コーヒーを2杯も飲んでしまう前に出かけようか雨のあとだから 道路には枯れ葉が散らばってすがすがしくなる破壊のあとだ うつくしいよ木々は眠りにつこうとしているのにブルーのあかりを灯してあらがうおまえたちは今年も人工的な色のセーターで肌色をすこ…

秋の星よりとうめいなひかり

喫茶店のカウンターで水を飲んでいたら、十字の形の星の名前を聞かれたんだけど、わかんないから素直に「知らないです」って言ったんだ。そうしたら「詩人なのに星のことを知らなくていいの?」ってせめられた。たぶん占い師とかと混同しているんだけど、な…

日曜日

休みなんてあっという間平日あれほど信仰していた時計に気づかないふりをして起きるのにぐずってしまえば真っ昼間あてのない弁明を誰にともなくしたい気分だ本棚に置いてある本は 読みたくて買ったもののはずだけどもう読んだから読もうとは思わないしiPodに…

かんたんじゃない

図書館でかりた那珂太郎の詩集をひらいたら、表3の部分に「新國誠一さまへ」という宛名とともにサインが入っている。おいおい。まじか。この驚きが伝わらないともったいないので説明すると、新國誠一というのは、コンクリートポエトリーという、文字の配置…

気休め

きのうは助手さんとインド映画のレイトショーを見に行った。「きっとうまくいく」っていう映画。以前後輩に借りてDVDで見たことがあった。物語にしてはやけに踊るけど、やっぱりすごくいい映画だったよ。あんな風に生きるのはきもちがいいと思う。きみも自分…

どれでもよかった

実家から新米が届くのが待てなくてゆめぴりかを買った。おいしい。ふかふかだ。やっぱり生きるのに必要なのは白米。あとお湯と日光。これだけあればいいんだということを、わたしはこれから何度も何度も何度も綺麗に忘れるんだろうな。白い封筒を一通郵便局…

気晴らし

美容院に行った帰りに、公園のベンチでメロンパンを食べていた。ぼーっと池をながめていたら、ふいに隣りに誰か座った。白いパーカーを着た男性だった。やけに香ばしい匂いがするなと思い横目に見たら、ピザを1枚食べている。箱ごと、ひざの上に広げて。思…

眠気

かなしみが抜けていかないので、遅出にも関わらずスーパーに行き煮物をつくった。料理をするのは好きでも嫌いでもないけど、淡々と野菜を切ってじゃんじゃん鍋で煮こむのは気晴らしになっていい。食べれるしね。なぐさめてほしいわけじゃないのに、ふとした…

タコ

指先でつめたい空気をさわって帰る夜道は、「もう秋です」って断言しているね。こごえそうでこごえない、寒さがここちよくって両手が泳ぐ。深夜の道路。ふいに、末の弟が、告別式に向かうマイクロバスのなかで、「さわってみて」って差し出した左手の指先の…

勝手にあきらめたりなんかするなよ。

じゃぶじゃぶに砂糖をいれてかきまぜたばかりのコーヒーみたいな甘ったれた気分だよちょっと話をしたいだけで頼んだ飲みものはいつも 黒さをもてあましている悪いねきみの思いえがいている夢のどこに自分を歩かせたらいいのか思いあぐねてもいつも何ひとつ …

ためらうような夜がかなしい

祖母の葬儀のために長野に帰省した。急いで職場に連絡をして、休ませてもらった。ふしぎと心は落ちついていた。実は、通夜で父や弟が声をあげて泣くのをはじめて見るようなきもちで見ていた、わたしは何が起きたのかすら、まだよくわかっていないのかもしれ…

ガードポール

朝がまぶしい。秋のひかりだと思うのに目が痛くて。かなわない。本来の出勤時間より早めに行って、ドトールでコーヒーでも飲もうと思ってたんだけど、駅についたときに鞄を見たら、財布が入ってなかった。焦った。Suicaの残高は200円。帰ることすらできない…

友人

あなたが 「もう疲れたよ」と言うかわりに一つきり 砂のような溜め息をついたのでわたしは今夜 やむにやまれず西と東の窓を開け部屋が水色に変わるのを見ているのかもしれません捨てるものと捨てられないものとで構成されたこの部屋のむこうでゆれる金木犀と…

遠くばかり見ていた

窓辺に咲いたキンモクセイが綺麗で、洗濯物を干そうとするたび手がとまる。それにしても、東京にはこの花がとてもたくさん、咲いているね。長野にいたころには気づかなかった。山と田んぼばかり見ていた。この花の名前を知ったのは中学生のころの、音楽の時…

枝がぼさぼさの松

デパートの屋上でパンにかじりつきながら、小・中学生のときの読書体験について語らった。最高の日曜日ではないでしょうか。ひさしぶりに空とか雲とかを見た気がする。屋上には子連れが多かった。なんかコインを入れるとうごくアンパンマンの乗り物とか、枝…

くま

いつ 会ってもわたしのことを「最高」って言ってくれる、母方の祖父が入院してしまったらしい。手術が終わり次第、退院するとのことだけど。こうも立て続けだとしんどいな。ひょうきんなじいさまなんだよ。わたしのことめちゃくちゃ好きなんだなってことはわ…

それはミンドゥル

台風がいってしまって、安心したし落胆した。こんなひどい雨と風でも、冷房のきいた教室のなかでやる授業はいつもどおりで、もう獣じゃないんだなと思った。窓にながれる雨の線を数える。最初から数えきれないことなんか知っている。頭のなかがぼうっとして…

やわらかくない

先生が何を喋っているのかだんだんわからなくなって、ノートのすみっこに「ブラックコーヒー」って書いた。わたしにとってブラックコーヒーはやさしいことばだ。飲むのはきらい。カフェオレがすき。広い教室にたくさん人がいて、先生がかなしそうに話す時事…

横顔

帰りの電車で、目の前に立っている女の人が泣いてた。目のふちをハンカチでおさえていて、ずっと頭より高いところを見ていた。その姿はみっともないどころか、むしろ凛としていて、夏の朝に、しずかな川をながめているようなきもちになった。隣りに立ってい…

忘れたいことをひとつ選んで、それから会おう

いや、ちょっと疲れた。短歌のことばっかり考えてる。同じ人に何日も会い続けることが本当に苦手。わたしは絶対にルームシェアとかできないと思う。さわやかなきもちで同じ人に会うのは、週に3日が限度なんだ。なんて、そんな自分ルールを国は認めちゃくれ…

愛してみたいが時間がない

笑えるよな。数日前の自分にもう裏切られてる。時間がたてば忘れられるだろうと高をくくっていたことは、たいてい時間がたてばたつほど忘れられなくなることばっかりだ。声をあげたい。それからどうせとり戻したくなるだけでも。駅のホームに人があふれてい…

ブルガリア

今日はテストだった。毎日8時間あまりぶっつづけで講義を受けている。正直もたない。でも気力の守り方が徐々にわかってきた。「あまり聞こうとしない」ことである。初回の授業で「寝てもいい」と言われ、笑ったが、それってどうなんだ。社会に学びを促す方…

入り口

どんな音楽を聴いても心がいっぱいにならない。音楽になっていない感情はどうやって手なづければいいのだろう。先輩が早めの誕生日プレゼントにくれた髪留めをして大学に行く。はじめて行く大学に。まだ在学生の夏休みがはじまっていなくて、大学生みたいな…

こんな夜空はとりかえしがつかない

きのう、喫茶店でメロンを3切れも頂いてしまった。もう夏が終わってもいい。嘘。来月は友人とメロンパフェを食べに行くので、それまでは夏でいてくれなくっちゃ困る。毎日生きているだけで生きていけてしまって、このままじゃだめなんだけど、どうしたらい…

やまないギター

夜中にチョコレートを買いにいってしまうクセを、なおしたほうがいいと思うんだけどやめられない。前にも書いたけど、これはちょっとした自虐なのだ。コンビニの会計をやっているお兄さんが、何度もレジを打ち間違えていて心配になった。しかし商品をすべて…

スコール

「雨あがりの夜の涼しさは世界の窓という窓をひらく」—岩田宏 泣いてる暇があったら詩集でも読んだほうがいい。本を読むのは武器を研ぐことと同じで、たのしくはないけど必ず私を助けてくれる。おおきな感情の波にさらわれたときに、家族にも電柱にもすがら…